この本は、ユニクロを世界中に展開させる株式会社ファーストリテイリングのトップ柳井正氏による「これから経営者になる人のために、ぜひ知ってほしいことを書き記した」というものです。
経営における要諦をつまびらかにした本書は、経営者を目指す人材にとっては当然のごとく至言・金言の宝庫であり、たとえ経営とは無縁である人にとっても貴重な人生訓とも読める柳井氏渾身のメッセージがつづられています。
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経営者に必要な４つの力
柳井氏によれば「経営者とは、一言でいえば成果をあげる人」とのこと。とはいえ「儲けさえすればいい」という考え方のもとで「何をやってもいい」「結果オーライでもいい」と嘯いて儲ける人間は経営者ではなく「モラルのない商売人」と断罪します。あくまで一番大切なのは「社会における自分たちの存在意義、つまり使命を考える」「会社の使命と成果が結びついていること。それが経営の原則」と説いています。
経営は実行である、という持論から柳井氏は経営者に必要な四つの力として「変革する力」「儲ける力」「チームを作る力」「理想を追求する力」を挙げています。
まず「変革する力」の章で柳井氏は、イノベーションをもたらすためには「非常識と思えるほどの目標を掲げよ」と語りかけます。そして、徹底的に常識を疑い、妥協のない基準の追求や失敗してもまた立ち向かう姿勢などの重要性を説きます。
具体的には、売上高がまだ八十億円程度のときから、ファーストリテイリング社を世界一のアパレル製造小売業にすると本気で発言した過去。「フリースは、登山やアウトドアメーカーがやるものだ」という常識を覆したユニクロでの逸話などが例に出されます。
市場は暴力的です。しかし安定志向に走らず、基本的なスタンスとしては、リスクを取って中途半端にせず結果が出るまでやりきるべきだということを柳井氏は熱く語ります。
次に「儲ける力」では、すべてをお客様のために徹するという商売の原点を力説。会社は株主のためにあるというMBA的発想ではなく、お客様のためにあるという持論を展開します。そして、企画や計画をして考えたことなどをコツコツと毎日実行し、問題があったらその都度解決をして、徹底的に積み上げていく大切さも強調。「能力の問題ではなく、習慣の問題」という柳井氏の言葉は、生まれもっての天才や秀才が幅をきかせているような経営者のイメージを払拭します。
他にも、スピード重視や現場第一主義、常に経営者はお金の使い方をいつも真剣に考えるべし、という経験に裏打ちされた儲けの真髄が述べられています。
さらに「チームを作る力」においては「たとえ個人がイノベーターとしての能力を持っていても、儲ける能力を持っていても、やろうとしていることをチームの力を使って実現できるリーダーとしての能力を持っていない限り、たいした成果を残すことはできない」という論を展開します。
柳井氏は、人間同士の信頼関係を作るための基本は「言行一致」とブレない「首尾一貫」が大原則であり、結局は「人としての誠実さ」を身につける必要があることを忘れてはならないという基本を説くのです。
そして最後に「理想を追求する力」。「会社にとって一番大切なのは、使命感」という思想を持つ柳井氏。最終的には「社会に貢献できる企業だけが生き残れる」と喝破。使命の実現に少しでも近づこうと、高い目標、あるべき姿を常に追い続ける挑戦をするべきであり、経営の戦略や意思決定が使命感に沿って行われているべきと主張します。
「理想を追求する力」によって、他の「変革する力」「儲ける力」「チームを作る力」のほとんどが、自分の自然な行動として導かれていくだろう、と柳井氏は訴えかけてくるのです。
いかに実行・継続できるか？
柳井氏が語る、経営者になるための心得はいずれもシンプルで当たり前のことです。しかし、これらを実行するのは容易なことではありません。この『経営者になるためのノート』は、文章の周りの余白に罫線が引かれており、ふんだんに書き込みができるようになっています。
実際にファーストリテイリング社では、執行役員はもちろん現場の店長にまで教育として使用されているとのこと。真っ黒に汚れるくらい書き込み可能な本書の汚れ具合を見れば、その人の成長が見えると言われるくらいだそうです。
本書に記されているシンプルで当たり前のことをどれだけ徹底的に実行・継続できるか。この困難を乗り越えられる人が真の経営者として成功できるのでしょう。
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