2003年に個人向けホスティング事業を事業目的とする有限会社paperboy&co.としてスタートしたGMOペパボ株式会社。「もっとおもしろくできる」という企業理念の元、「インターネットで可能性をつなげる、ひろげる」というミッションを掲げ、レンタルサーバー「ロリポップ!」の他、ハンドメイドマーケット「minne」、ネットショップ作成サービス「カラーミーショップ」等、ユーザーの皆さんのインターネット上での表現活動の可能性を拡げていけるようなWebサービス、スマホアプリの企画・開発・運用をされています。
2020年12月には東京証券取引所市場第二部から同市場第一部銘柄に指定され、大きな成長を遂げている今注目の企業である同社では、2020年1月に人事制度を刷新したのち、OKR導入に乗り出しました。
今回は同社でのOKR導入について、社内で旗振り役として対応されているHR統括部の船橋様、太田様にお話しをお伺いしました。(聴き手:当社代表取締役 奥田和広)
プロフィール
GMOペパボ株式会社 HR統括部 副部長 船橋 恵
2009年GMOペパボ入社。役員秘書、サービスディレクターを経て、2013年より人事部門に従事。2014年育休中に社会保険労務士資格を取得。採用や研修、評価制度等の制度設計、運用等の業務を担当し、現在はHR統括部の副部長として組織力向上をミッションとした業務に注力。
GMOペパボ株式会社 HR統括部 HR統括グループ 人事企画チーム 太田 紘子
複数社で人事に携わり、労務管理や新卒・中途採用を経験。2018年にGMOペパボへ入社し、中途採用をメインに人事企画に従事している。
OKR導入前の組織や人事の状況、導入検討の経緯
まずはOKR導入される前の状態について、どんな組織・人事の状況下で導入検討を始められたのかお伺いできますでしょうか?
船橋様
導入にあたって、どんな準備をされたのですか?
船橋様
全社を巻き込むのはパワーがいることなので、準備期間として私たちHR統括部からトライアルを始め、課題や難易度が高い点等を抽出し、準備を進めていきました。
トライアルを行っている中で、コロナの流行があり2020年1月下旬から在宅勤務体制に入ったこともあり、組織はもちろん、より個々のパートナー(社員)の責任や役割を明確化させて、「迷いなく同じベクトルに向かって走れる状態が必要」となり、よりOKRの必要性が高まっていきました。
個人の目標が任意になったとのことですが、元々の人事評価制度から今回の人事評価制度に変えることになったポイントは何だったんですか?
船橋様
業種問わず変化の激しい時代の中で、半年ごとのスパンでの評価制度の運用では「期初に立てた目標が期末の評価のタイミングで必ずしも重要度が高かったか」というと、そうとも限らないことがありました。結果的にこれまでの評価制度では、目標に対する適切な評価を行うという点、そしてその期間パートナーが取り組んできたことへの振り返りをしっかりと行うという2点において運用上の課題を感じていました。
そこで個々の目標設定に固執するより「対象期間を通した個々のパフォーマンスがどうであったか」というプロセスを言語化することの方が、より未来に向けて私たちが成果をあげ再現性を高めることになるのではという仮説の元、新しい評価制度に刷新しました。
人事部門でのOKR運用トライアル
HR統括部でOKRの運用トライアルで、実際に運用してみて良かった点、課題に感じた点はありますか?
船橋様
HR統括部のような管理部門はそれぞれやることが明確で、通常業務をベースで持ち合わせた上で、それぞれ自分のミッションがあります。そこに新しい仕組みを取り入れるということは「プラスαの業務が増える」というイメージを持たれることの懸念がありました。そのため、最初のOKRの設定はそれぞれが担っている業務効率化や、自動化を図り余白を生むような内容の設定にする工夫をしました。
ただ、そこは功を奏した部分があると思いつつ、経験値の浅いジュニアメンバーにおいては高い目標として掲げられた「OKRを個人としてやらなければならない」という心理的なプレッシャーがかかってしまう点が課題としてありました。
太田さんはメンバーとしてOKRトライアルに関わっていましたが、いかがでしたか?
太田様
そうですね。クォーターごとに少しずつアップデートはしていきました。
初回のクォーターでは、マネージャーがチームオブジェクトを決定したのですが、すべてのチームメンバーが関わることができないオブジェクトもあったため、メンバー全員が一つのことに対して取り組むという体験ができませんでした。
2回目のクォーターでは、チームメンバーとマネージャーみんなで話し合い、チームオブジェクトを決定する等、少しずつ自分たちに合う形を探していきました。
良かった点はありますか?
太田様
私が所属している人事企画チームは採用がメインで、主に中途採用担当と新卒採用担当で業務が完全に分かれていたのですが、チームで同じ目標があるという視点で動いたことで周りが何をやっているのかが可視化できました。
また、ジュニアメンバーに対し先輩たちがフォローを入れる等、連携が生まれていきました。
船橋様
私がマネジメントしている人事厚生チームは、労務や安全衛生がメインで、ジュニアメンバー比率が高かったので、まず心理的負担になっている部分を改善するため、チームのKRから個人のOKRに落とすのではなく、チームのKRに対して複数メンバーをアサインし組織上にはないチームを組成、プロジェクトメンバーとして取り組んでいくことで、課題は解消されていきました。
最終的には、今回の4クォーター目、10~12月においてはHR統括部の中で分かれている2チームが、チームを横断してプロジェクトに取り組みました。それにより普段以上にコミュニケーション量が増え良い取り組みができました。
OKRの運用を行う中で増えたコミュニケーション
OKRの設定や運用をする中で、コミュニケーションや連携が増えたというのは効果としては大きいですか?
船橋様
はい。そう思います。
目標に対して「どう取り組んでいくか」「これは何の目的なのか」等、マネージャーとチームメンバーの、対話によるコミュニケーションが増えました。
通常業務であればそこまでコミュニケーションはないですが、OKRを機会として一緒に取り組むことが増えました。
太田様
私もコミュニケーションが増えたと思います。
チームオブジェクトをみんなで決める段階で、それぞれが思っていることを共有しあい意見を出し合うといったコミュニケーションが増え、他の人がやっていることに興味を持つようになりました。
コミュニケーションが増える中で意見を出し合いながら、OKRを最終一つの方向に決めていくことになると、意見をまとめることも必要ですね。
苦労された点、意外とスムーズにいった点等はありますか?
太田様
難しかった点はメンバーそれぞれが自分たちでやらなきゃいけない業務があるので、「目的のためにどうする」というより「自分の業務を終えるためにどうする」という話になってしまわないようにすることです。
そのため、できるだけ「何のためにそれが必要なのか」という筋道をきちんと立てて話すということが重要でした。そこが失われるとそれぞれが自分の視点だけで意見を言い合う形になるので、一生終わりません。
道がそれて複雑化するようであれば、次回ミーティングのゴールをどこに持っていくか設定し、各自がそれに向けた準備をした上で、日を改めて話し合っていきました。
船橋様
最初のクォーターではチームメンバーとのコミュニケーションは取りながら定めたものの、トップダウンの要素が強かったです。
2回目のクォーターでは、逆にボトムアップを意識しすぎました。
みんなが「どんなことをすればよいか」を出し合い「ではこれをやろう」という決め方をしたため「上位組織の目標に沿っているのか」という疑問が出てしまいました。
それを踏まえた3~4回目のクォーターは、私のチームでは私が骨子を作り「これでいこうと思うけど、みんなはどう思う?」と意見を聞きながらOKRの設定をしました。
チームのカラーにもよると思いますが、私の担当チームではそれでスムーズにいったかなと思います。
トップダウン、ボトムアップを経て、OKRの設定をブラッシュアップしてきたのですね。
船橋様
これまでOKRに取り組んできて、OKRの設定に必要なのはTOP OKRや上位OKR、部門の目標がどれだけ明確かということに尽きるのではないかなと思っています。
そこをなくして、チームや個人のOKRを決めても取り組みが小さくなってしまったり、上位組織の目指す方向と個人のアウトプットが一致しないことが出てきてしまいます。組織のみんなが「やったことが未来に繋がる」と実感しながら進んでいけるようにしたいので、そう考えると「適切な目標設定をするのは簡単なことではない」とこの1年を通してやってきて今もなお感じています。
適切な目標を立てるというのは難しいことで、だからこそ対話しないといけないと思います。OKRを導入すれば簡単になるということはないですよね。
逆説的に言えば、OKRを設定する中で齟齬があると気が付ける点がいいところかもしれません。
本格展開、全社導入へ
全社導入の本格展開にあたり、全社員に向けて丁寧に教育を進めるため導入ミーティングを行いましたね。教育も含め本格展開をどのように検討しましたか?
太田様
会社として新しい仕組みを入れた後は定着するまでが大変です。2020年1月に新評価制度に切り替え、まだ定着していない中、さらに追加で新しいツールを入れることでパートナーの負担にならないためにも、支援ができるようにしたいという思いがありました。
船橋様
弊社の評価制度は各パートナーの報酬に紐づくので、導入した評価制度をしっかりと運用することが重要であり、私たちHR統括部としても取り掛かるパワーが必要です。
全社的には、まだ日が経っておらずしっかり浸透していない中での「OKRはより高みを目指していく」ためのツールなので、各パートナーの受け止め方、心理的負担等はHR統括部で全社的にケアしていきたいと考えています。
メンバーへの負担を考慮されたのですね。マネージャーについてはいかがですか?
船橋様
目標設定はマネージャーがリーディングしていく必要があると考えています。評価をするのも、OKRをリーディングするのもマネージャーなので、負担が増える懸念はあります。
OKRは私たちHR統括部がひとりよがりに推進していくものではなく、各部門のマネージャーが当事者意識を持って目標達成や高い目標にむかっていくためのツールであり、活用を支援するために私たちHR統括部もマネージャーたちとコミュニケーションをとってきました。
そういった検討を進める中で、今回タバネルが導入教育をお手伝いさせていただきました。
船橋様
当初、OKRを導入していくHR統括部のプロジェクトメンバーだけで進めようかとも思いました。しかし外部の方にお手伝いいただき、知見をお借りすることで他社様での成功事例や失敗事例等も提示することで、社内のパートナーに「よりよいものだ」と認識してもらった方が、スムーズな導入ができるのではないかと考えました。そこでタバネルの奥田先生にご相談させていただきました。
太田様
HR統括部で事前に運用していた時に、目標をたてるのも難しいがKR自体も設定の仕方がすごく難しく、具体的にどういうやり方ができるのか本やインターネットで情報収集をしてみたものの限界を感じていて…。
OKRはあくまでツールであって、弊社の今の形に合うようにカスタマイズしたいけど、独自性が進みすぎてOKRの本質からズレることは避けたいと思っていました。そんな中で奥田先生の本やタバネル様の導入実績を拝見して、ぜひお力をお借りしたいと思いご依頼させていただきました。
全社導入教育の成果
太田さんにも関わっていただきながら、各チームで導入ミーティングを実施しましたが、実施してみてのご感想や工夫された点等はありますか?(全社員対象に1回30人程度で部門ごとに導入ミーティングをオンラインで全11回実施)
太田様
導入ミーティング後のアンケートでは、回答者の90%以上が「OKRの知識が上がった」、「今後OKRを導入してみんなで目標に向かって走ることに期待が持てた」という回答で、とても成果が出たと感じています。
成果が出たと思うポイントはありますか?
太田様
アンケートの回答内容からは、当初想定していた「具体的な答えがない」というところを奥田先生が埋めてくださったという印象があります。
「こういう場合はどうすれば良いですか?」という問いに対し、奥田先生の今までのご経験を通して「KRであればこういう置き方ができますね」と具体的なアドバイスがあって、自分たちでも今後もできるかもしれないという自信に繋がったのかなと思います。
そういった意味では回数を重ねて、オンラインでブレイクアウトルームを作ってこまめに各ルームを回らせていただいたので、私自身もメンバーの方々と直接対話しフィードバックができました。
ただオンライン上で話すだけだと、プラスαにしかならないのですが、グループワークでしっかり考えた上で全体発表、その内容に私がフィードバックをしました。太田さんのサポートのおかげでスムーズに実施でき、みなさんの理解が深まったかと思います。
太田様
導入ミーティング(説明部分)を録画させていただく等、柔軟な対応にとても感謝しています。今後新しく入社するパートナーにも見てもらえるコンテンツができたのは、私たちにとってとても良かったです。OKRを運用するフォーマットもご準備いただき、本当にありがとうございました。
船橋様
弊社が2020年6月よりリモートワークを基本とする働き方になったので、オンラインでの完結が実現できたことも良かったです。奥田先生とはまだ直接お会いしたことないですもんね(笑)
集合研修は、「オフラインよりオンラインの方が難しいかな」と思っていましたが、習得度としてはオンラインの方が集中して学びを得られるように思いました。実際、結果としてオンライン実施での効果は高かったように個人的には感じました。
スプレッドシート等を使い、全員が言語化しながら、オンライン上で対話できるように設計しました。結果としてみなさんが積極的に参加したいただき、私も具体的なフィードバックやアドバイスができました。
今後の期待や課題
OKR導入開始にあたっての教育部分は、先日終了させていただきましたが、今後に向けての期待や課題があれば教えてください。
船橋様
課題はまだまだありますが、OKRの概念は全パートナーが理解できました。
元々の導入教育のゴール「知識レベルを備える」は達成できたと思っています。
ただ、概念がわかれば運用ができるかとなると、それはまた別なので自分たちの次の目標に落とし込み、それをしっかりと運用していく。大切なことから目をそらさず、ただのタスク管理ツール状態にならないように、高い目標に向かっていくことや、コミュニケーションを重視すること等、あるべき姿を推進していくのが私たちの役割です。各部門の責任者が常にそういったことを念頭に置きながら、そもそもの目的を達成できるようになるため引き続き支援していく必要があると考えています。
とはいえ、私たちの知識や経験値をもとにした直接的なフォローではなく、「この項目をお忘れではございませんか?」といった呼びかけや確認、リマインドを主軸に各部門の支援をしていきたいと思っています。
目的達成に向けての運用について、各部門を支援していくことは大切ですね。
船橋様
はい、現状ではやはり、組織の状態は各部署様々で高い目標に向かえる安定したチームもあれば、組成して間もないチーム、目標が定まっていないチームもあるので、それぞれのチームに合わせてOKRを活用することが大切だと考えています。杓子定規に「OKRをやること自体が成功に繋がる」というやり方ではなく、そのチームに合わせてOKRの旨味を享受してもらいながら、目標に向かえるようなチーム状態にしていくということを支援していきたいです。
太田様
私も船橋同様、ようやくスタート地点に立ち、ここから運用のフェーズに入るので、OKRを回すことが目標ではなく、目標達成のためにOKRをうまく利用できるように支援していきたいと思っています。
OKRはあくまでツールであり回すこと自体は目的ではないですね。また、コミュニケーションが増えたとか、高みを目指すという中でプレッシャーを感じる人もいます。OKRを運用していく中でごブラッシュアップして、本来組織が目指すところをサポートできるツールにしていただければ嬉しいです。
あとがき
OKRの全社導入にあたり、まず自分たちでトライアル導入し試行錯誤してきたお二人だからこそのお話をお伺いできました。全11回の全社向け導入ミーティングをオンラインで実施しましたが、改めてOKRのポイントを振り返ることができました。
GMOペパボ株式会社 会社概要
GMOペパボ株式会社(英文表記:GMO Pepabo, Inc.)
代表取締役:佐藤 健太郎
資本金:1億5,967万円(2019年12月末時点)
従業員数:単独 304名、連結 327名(2019年12月末時点)
はい。2019年秋頃からOKR導入の検討を始めていました。
2020年1月から評価制度を刷新し報酬制度や等級制度を変えることになりました。それに伴って従業員個人の目標設定が任意になったことがきっかけです。
それまでは個々で目標設定をしていたのですが、それを撤廃し等級要件の定義に即した評価を行うように制度を変えることになったのです。
とは言え「目標に向かって成果をあげる」というのがないと、明確な成果や責任が不明瞭になるので、組織として大きな目標にチャレンジする上で「OKRの導入が良いのでは」という話になり準備を始めました。
当初はカンパニーOKRの設定から検討していたのですが、弊社では複数の大きな部門があって、事業セグメントが分かれているので、統一した短期スパンでのOKRの運用が難しく、事業部ごとのOKRをやっていくことになりました。