近年注目されている目標管理手法「OKR」について、その意味をちゃんと理解できていますか?Googleが導入していることで有名になり、日本でも最近では導入する企業が増えてきました。この記事では、OKRついて基礎からわかりやすくご説明します。OKRの設定、運用、マネジメントへの活用まで徹底解説しますので、ぜひご活用ください。
OKRとは?
OKRとは、「Objectives and Key Results」の略で、目標管理手法の一つです。OKRを活用することで、組織、チーム、個人が目的、目標に向かうベクトルをを一致させることができます。また、OKRは高頻度で設定、運用することで、環境変化に俊敏に対応し組織内の意識と努力を合わせ続けることが可能になります。
このように、OKRを導入することは単に目標を設定、管理するだけでなく、組織で成果を出すためのマネジメントの取り組みであり、コミュニケーションツールへの取り組みとも言えます。
OKRの基本
OKRは組織のベクトルを一致させるために、トップからボトムにいたるまで結びついており、基本的に全員に公開し、一定期間(通常は3か月)ごとに設定、運用を繰り返します。
OKRは「O:Objectives(目的)」と「KR:Key Results(重要な結果指標)」の2つ要素で構成されます。期間の終了時に達成したい目的を、Objectivesとして設定します。その達成度合いが、Key Resultsによって計測できる関係です。
(3か月後に)私たちは、「Objectives」を達成したい。その達成度合いは「Key Results」によって計測します。 |
簡単な例として、接客サービスを提供している会社を考えてみましょう。
Objectives お客様のサービス体験を劇的に改善する
Key Results① お客様アンケートの満足度を〇ポイントアップ
Key Results② お客様のリピート率を〇%から〇%に向上
Key Results③ お客様の平均待ち時間を〇分へ短縮
上記の文章に当てはめると、以下のようになります。
(3か月後に)私たちは「お客様のサービス体験を劇的に改善する」ことを達成したい。その達成度合いは、「お客様アンケートの点数を〇ポイントアップ」「お客様のリピート率を〇%から〇%に向上」「お客様の平均待ち時間を〇分へ短縮」によって計測します。 |
Objectives(目的)とは
「Objectives(目的)」とは,「何を達成したいのか?」「どこに向かおうとしているのか?」を定性的なメッセージで表現します。Objectivesの特徴は以下の3点です。
・挑戦的である 成長のため,現状の延長線上では達成できないゴールである ・魅力的である 組織のメンバーが達成したいと思える魅力,メッセージがある ・一貫性がある 組織全体とチーム,メンバーの目的がつながっている |
Objectivesは、組織、チーム、個人が達成したい挑戦的な目的のベクトルを合わせ、メンバーを鼓舞できる魅力的メッセージで表現しましょう。
Key Results(重要な結果指標)とは
「Key Results(重要な結果指標)」とは、「目的の達成度合いをどう計測するか?」を示す定量的な指標です。重要な指標を設定することで、「どのように目的に向かうのか?」、「目的との距離をどう把握するか?」が明確に定義されます。
1個のObjectiveに対して、3-5個程度のKey Resultsを設定します。全てのKey Resultsが達成されると、Objectiveを達成したことになります。
Key Resultsの特徴は以下の4点です。
・目的への結びつき 目的を達成するための具体的指針となっている ・計測可能 実績の測定が可能で,成功,失敗の判断基準とできる ・容易ではないが,達成可能 困難だが,成功確率50%程度で達成できる水準 ・重要なものに集中 絞り込まれた本当に重要なことのみに集中する |
OKRの特徴と効果
OKRの特徴を正しく理解し、活用することで大きな効果が生まれます。
まず、OKRの最も特徴的な4つのポイントとその効果を解説します。
- 焦点を合わせる
「戦略とは捨てること」と言われるように、成果を生むためには本当に重要なことに集中しなければなりません。経営資源が限られている中、組織が焦点を合わすべき目的を絞りこまなければなりません。OKRを設定する際に最優先事項にフォーカスし、優先度が低いやらないことを捨てることが重要です。
- 組織を結びける
組織のトップからチーム、現場のメンバーにいたるまで、ベクトルを合わせることで、組織の力は最大限発揮されます。OKRは常に公開することで、組織トップ、ミドル、ボトムを結びつけることで、設定から運用に至るまで整合性、一貫性を持つことができます。
OKRを全て公開することで、組織内で透明性が増し、組織内での協力が促進されます。
- 進捗を追跡する
OKRを設定し運用を開始すると、高頻度で進捗を追跡します。進捗状況を素早く共有し、軌道修正などベクトルを合わせ続けるとが可能になります。自分たちが達成したいObjectivesに対して、Key Resultsの進捗を追跡し現在地を明確にすることで、状況判断のもとで次の行動に踏み出せるようになります。
- 挑戦的な水準を目指す
高い理想を掲げることは、大きな成果、成長を生み出します。OKRは現状の延長線上から大きくストレッチした挑戦的な設定することが重要です。簡単に達成できる水準を目指していると、大きな成長に繋がらないだけでなく、新たな発想を生み出すこともできません。OKRを活用することで、理想を掲げて挑戦する組織に変わります。
また、上記の4つ特徴を持つOKRは、さらなる効果を発揮します。
- 組織のスピードを加速する
一般に3か月ごとにOKRを見直して設定を繰り返します。設定されたOKRは、週に1回程度の高頻度で進捗を追跡した上で、振り返り、フィードバックを行います。そして、次に向かう行動変化を素早く起こします。このように、組織が目的に向かうリズムのスピードを上げることで、変化に強い俊敏で柔軟な組織に変わります。
- エンゲージメントを高める
ビジョンや上位のOKRと自分のベクトルを確認できるため、自分の仕事が何を目指しどんな意味を持つのかを強く意識でき、本人のやりがいや熱意が高まります。また、自分の仕事だけでなく、組織、チームについて高頻度で携わることで、自分が組織、チームの一員であると実感する機会が増えます。
- 学習する組織へ変わる
高い理想を掲げて挑戦するこによって、組織も個人も学習し成長できます。また、進捗を追跡し次の行動変化を生むために、対話を定期的に行うことになります。組織内で学習と対話が生まれるため、組織も個人もより学習し成長します。
- マネージャーを支援する
多くのマネージャーは業績面とメンバーの育成や関係構築など人の面の両立に葛藤しています。これまで見てきたように、OKRはその両立を叶えるために様々な特徴があります。組織の要であるマネージャーにとって、OKRは効果的なマネジメントを支援する仕組みと言えます。
OKRの導入ステップ
OKR導入を検討する段階から運用を開始するまでの一般的なステップを解説します。
①導入検討段階
OKRの導入するかどうかを検討する段階であり、導入のねらいを明確にしコンセンサスを得ることがゴールとなります。
まず最初に組織の課題を明確にしましょう。組織が何を目指し、どんな課題を抱えているのか、その課題を解決しどのような組織になりたいのか、を明確にしましょう。
同時にOKRについて共通の理解を持つことが大切です。幹部向けOKR勉強会の開催や、テキストとしてOKR解説本の読書会などが一般的に行われます。
その上で、OKR導入のねらいを明確に定めます。組織の課題とその解決策として、本当にOKRが有効かを考慮し、導入の是非とねらいを決めることが大切です。OKRはあくまでツールですので、導入自体が目的化しないようにしましょう。OKRは様々な効果をもたらしますが、その中で導入時に最も重視する効果が導入のねらいとなるでしょう。
【例:組織課題とOKR導入のねらい】
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この段階で、トップの覚悟とコンセンサスが重要です。OKRに限らず新しい仕組みの導入は、抵抗や反発などがあり簡単に進むわけではありません。トップや幹部が揺るがずにOKR導入に挑むことで、困難を乗り越えることができます。
最後にOKR導入を進める推進責任者を決めます。OKRど検討を進める上で、様々な業務や調整が必要になるため、推進責任者(もしくは推進チーム)を決めることが必要です。
②導入準備段階
OKRの導入が決定したら、次に導入の準備をしなければなりません。導入準備段階では実際の導入にむけて、OKR導入と運用に必要な調整、決定をします。
- 導入範囲のへ決定
組織全体に導入するのか、一部の部門などから導入するのかを決めます。一部の部門でテスト導入をした後に、導入範囲を拡大して全体導入することもあります。
- 導入時期の決定
いつからOKRを導入し、運用するかを決定します。また、一部テスト導入をする場合は、テスト導入する時期と全体導入する時期を決めます。
- 運用方法の決定
OKRを運用サイクル、運用方法、運用のためのツールを決定します。一般的な設定、運用方法は後述しますが、3か月ごとにOKRを設定し、週次で運用し、そのために必要な場を設計します。同時に進捗を追跡するためにどんなツールを使うのか、エクセルやSlackなど慣れ親しんだツールを用いるのか、それともOKR専用ツールを導入するのか、などを決めます。、
- 導入教育の実施方法
OKRの効果を最大限発揮するための教育をする方法を決定します。そのためには、メンバー全員がOKRを正しく設定、運用する方法を理解しなければなりません。全員に対して、必要な仕組み、知識をインプットするだけでなく、不安や疑問を解消できるようにします。
- 既存の仕組み、他の施策との調整
OKR導入で二度手間になるような会議体、報告書類は調整する必要があります。また、人事評価制度や予算管理制度など他の施策は調整すると同時に、混乱を生まないように調整の意図をしっかり従業員に伝えることが大切です。
③導入教育段階
OKRの導入に失敗する原因の一つに、導入教育の失敗があります。
OKRの説明資料を配布するのみにする、または管理職だけに教育してメンバーへの教育はないがしろすると、OKRが正しく理解されず、不安や不満も解消できないため、導入が失敗に終わるケースが多いです。そこで、導入部門単位で全員が参加するワークショップ型研修を実施することをおすすめします。
【例:OKR導入研修3時間】
1.OKR導入のねらいをトップから説明 |
④運用開始段階
導入教育段階が終われば、いよいよOKRの運用を開始します。OKR推進責任者は、正しくできているるかなど運用状況を確認します。また、不安や不満を解消できるように質問を受け付けるなど、フォローを行います。さらに、導入のねらいとした効果を検証するために、アンケートや現場のヒアリングを行い、必要に応じて設定や運用方法のブラッシュアップを行いましょう。
OKRの設定ステップ
OKRがねらい通りの効果を発揮するためには、正しく設定する必要があります。そこで、どのようなステップで設定する方法を手順に沿って説明します。
①前提確認
OKRは組織がビジョン、ミッションに向かうための戦略を実行するためのフレームワークです。そのため、OKRを設定する前に、ビジョン、ミッション、そして戦略を確認することが大切です。
また、前期の振り返りを行い、現状と次期への課題を全員で確認することも重要です。
②Objectivesを設定する
3つの特徴「挑戦的」「魅力的」「一貫性」を意識して、目的(Objectives)を設定しましょう。
1人で考えるのではなく、メンバー全員を「巻き込む」ことが重要です。全員で作り上げる過程の中で、目的を考える作業自体が目的の浸透につながります。そして自分たちで決めた目的だからこそ、意欲的に目指すことができるようになります。
③Key Resultsを設定する
4つの特徴「目的への結びつき」「計測可能」「容易ではないが,達成可能」「重要なものに集中」に基づき設定します。
新たに設定する指標は計算根拠を明確にしましょう。人によって計算方法の解釈に違いがあると、判断時に意味をなさなくなってしまいます。
設定したKey Resultsを達成したときに、Objectivesが達成された状態にならなければ適切な設定ができていませんので、再考しましょう。
④他のOKRと調整する対話を行う
組織全体、部門、チームなど各OKRをひとまず設定します。一貫性、整合性がとれているか、ヌケモレがないか、をお互いに確認しましょう。設定時点でしっかり対話し、目指すベクトルと水準を合わせることが重要です。
OKR導入企業について学べる本
OKRをさらに詳しく学びたい人にOKR導入企業について書かれたオススメの本を紹介します。
ワーク・ルールズ!
Googleの人事トップのラズロ・ボックが、採用、育成、評価について書いた本であり、OKRが日本で広がるきっかけになった本とも言えます。
第7章「誰もが嫌う業績管理と、グーグルがやろうと決めたこと」の中でOKRについて言及されています。
結果(注:Key Results)は具体的、計測可能、検証可能でなければならず、すべての結果を達成すれば目標(注:Objectives)を成し遂げたことになる。
このようにOKRを定義した上で、以下の点を解説しています。
達成できないとわかっている野心的な目標をわざと設定する
期初に会社のOKRを設定し、会社と自分のOKRを比較し合わせることができる
常に全社員がいつでも他の人、チームのOKRを見ることができる
OKRに関する記述はあまり多くありませんが、Googleの成長の秘訣、特に人や組織について学ぶべき点が多い本です。
How Google Works
ワーク・ルールズ!と同じくGoogle関連の本です。こちらは会長エリック・シュミットほか現役の幹部がGoogleの働き方、文化、考え方をまとめた本です。この本では透明性を大切にしている例としてOKRが取り上げられています。
透明性の具体例といえるのがOKRだ。OKRとは個々の社員の目標(Objectives、達成すべき戦略的目標)と主要な結果(Key Results、その目標の達成度を示す客観的指標)である。すべての社員が四半期ごとに、自らのOKRを更新してイントラネットで公開することになっており、他の同僚がどんな仕事をしているかが簡単にわかる。
基本的に組織内の情報はオープンであることが求められています。オープンは一般的に私たちが考えるレベルより高く、法律などで禁止されている一部の情報を除きすべてオープンである、との文化が浸透しており、その一環として目標(OKR)もオープンにされています。
「3か月」の使い方で人生は変わる
クラウド会計ソフト「freee」の創業者CEO佐々木大輔氏が著者の本。Googleを経てfreeeを設立して現在に至るまで結果を出してきた著者の時間の使い方、働き方について書かれています。OKRについては「やらないこと」を決める優先順位づけの大切さを仕組化したものの一つとして言及されています。
freeeでは会社として、「向こう3か月の時間を、どういう優先順位で使うか」を「OKR(Objectives and Key Results)」によって管理している。(中略)OKRとは、Objective(目的や大目標)を設定し、それに向かってものごとが進捗しているか、あるいはそれが達成されているかどうかを判断できるような、なるべく定量的に表現できるKeyResults(結果指標)をセットし、その達成を目指してものごとを進めていく管理手法だ。
個人が優先順位を明確にすることだけでなく、組織の目標達成についても重要であることを以下のように紹介しています。
通常は、全社レベルのOKRとそれにリンクする部署ごとのOKR、それにリンクする個人のOKRというものがセットされ、個人のOKRが全社にとってどんな意味をもつかも明確化されるため、とくに大きなことをチームで成し遂げようとする際に効果的な手法だと思っている。
本書は3ヶ月というテーマでfreeeおよび著者の仕事術が丁寧に紹介されています。実際にOKRを導入、運用している日本企業の本は数少ないため、参考になる点が多いです。