パナソニックの知財カンパニーであるパナソニックIPマネジメント株式会社さま。タバネルでは同社のOKR導入、運用についてコンサルティングのご支援をしております。
今回は代表取締役社長の足立さま、商標意匠部部長の梶本さまに、お話をお伺いしました。(聴き手:当社代表取締役 奥田和広)
プロフィール
パナソニックIPマネジメント株式会社
代表取締役社長 足立 和泰 様
パナソニックIPマネジメント株式会社
商標意匠部 部長 梶本 晋平 様
OKR導入の背景
はじめに、パナソニックIPマネジメント株式会社がどのような会社か、お聞かせください。
足立様
御社がOKRを導入することになったのは、どのような背景があったのでしょうか?
足立様
大きく2つの課題認識が背景にありました。
従来、知的財産部門では特許の出願件数やライセンス収支などの数値目標をKPIとしてきました。しかし、それだけでよいのか。
知的財産活動の目的は「事業への貢献」です。私たちの活動の目的も、事業によって違いがあります。一律の目標設定ではなく、それぞれの事業に合わせた目標設定をすべきですが、その仕組みとして、従来の目標管理手法では充分ではないと考えていました。
経営者の方は常に意識されていると思いますが、メンバー全員が「事業貢献」を認識するのは難しいですね。
もう一つの課題認識は、何だったのですか?
足立様
部門やメンバー個人の目標設定は毎年4月にしていて、達成しているかの確認は半年ごとでした。
当初立てた目標が形骸化している場合もあり、環境変化の激しい時代にこれでよいのかという課題認識がありました。
OKRでは、高い頻度で対話し、素早く振り返りを行うことで、期初に立てた結果指標(KR)やその優先度を変えていきます。環境変化が激しい時代のマネジメントとして日本でも注目されていますね。
OKR導入の取り組み
足立さんが、いざOKR導入を決断されてからは、どのように進められたのですか?
足立様
昨年20年度から全部門でスタートしましたが、まずは奥田さんによる全社向けOKR勉強会を開催しました。管理職層以外は任意参加でしたが、多くの社員が参加してくれました。
オンラインでの実施でしたが、たくさんの方にご参加いただきましたね。
OKR推進チームの皆さんのご尽力で。積極的にご質問いただき関心の高さを感じました。勉強会終了後にリーディング部門を決めて、OKR導入、運用がスタートしましたね。
足立様
そうですね、全社一律の導入ではなく、まず4つの部門をリーディング部門として位置付けました。
そこでの経験を他部門に展開しています。全体ではやや緩やかに、現場の状況に合わせて導入してもらってもよいと考えていました。
大きな組織の場合、テスト的な導入からスタートしてみるのはおススメです。
最初にOKRを導入したリーディング部門では、どのように感じられましたか?
梶本様
OKR導入によって、メンバーが「何をすれば経営貢献に繋がるのか」をより強く意識するようになったと感じています。
OKRでは「チーム全員が正しく事業理解をすること」が大切です。
そのためにも、事業の目指す方向について、共通認識をするために、定期的にトップから発信していただくと良いと思います。
他に、OKRによって変わったことはありますか?
梶本様
これまでメンバーが期限のある仕事や緊急の仕事を優先して、期限はないが重要な仕事は後回しになりがちでした。
OKRを導入してからはそのような仕事が着実に進むようになったと感じます。優先順位をリーダーときちんと議論して、互いに協力しあえているからだと思います。
リーディング部門でのテスト導入で手ごたえを感じた上で、いよいよ全体への本格導入でしたね。各部門での前期の振り返りから設定まで全員参加型でのワークショップで取り組んでいただきましたがいかがでしたか?
足立様
OKR設定については、メンバー全員で議論をしてOKRを設定する「ワークショップ」を全部門でやってもらいました。
奥田先生にアドバイザーとして入って頂いて、先生の適切なコメントや指導への評判はとても良かったと聞いています。
ありがとうございます。私も参加していて、リーダーが挑戦的な目的を示して、それに向かって、メンバーも協力して目指そうというポジティブな雰囲気も感じられました。メンバーの「参画意識」を高める巻き込みができていました。
OKR運用とコミュニケーション
一方で、OKRを運用していく中で、課題を感じられている点はありますか? 特に難しいと感じられているところはありますか?
梶本様
もちろん、現場からは色々な声が聴こえています。課題もいくつか見えています。
当初は、四半期ごとのOKRの設定や、毎週の達成度の確認が、自分たちの仕事の時間軸には合わないという声が多かったですね。知的財産の仕事は、結果が出るまでに何年もかかったり、事業を裏で支える大切な仕事でも表面上は成果が見えにくいこともあります。3カ月ごとに結果を求めて達成度を測ることが難しい仕事があるのも事実です。ですが、環境変化の速い時代には、知的財産部門にもそれぐらいのスピードで変化が必要だと考えています。
足立様
運用面では、原則としては教科書通り、毎週のチェックイン・ウィンセッションの実施をすすめてもらっていますが、部門によっては毎週の実施に負担感を感じているところもありましたので、そこは部門の責任者に任せるようにしています。
そうですね。現場の状況に応じた運用の変更はしてもらって問題ありません。ただOKRの意義がなくなるような運用の変更には気をつけて欲しいですね。
私は「OKRはコミュニケーションツール」だと考えています。
「短時間、高頻度で学習を繰り返すこと」、「チーム全体で情報共有すること」、「チーム全体を巻き込むこと」、「チームの心理的安全性を高める承認・賞賛の機会を設けること」は、大切なところですので、守って欲しいと思います。
(Microsoft Teamsを活用したウィンセッション)
実際にチェックイン、ウィンセッションを運用されて、どのような効果をお感じですか?
梶本様
たとえば知財の管理業務は知財活動を下支えする大切な仕事ですが、ミスが許されませんし、ある意味ミスしなくて当然とされる仕事です。表面上は仕事の成果が見えにくい。日々の仕事も個人に閉じてしまいがちで、他のメンバーの動きが見えにくい。また、他課の仕事内容が共有されにくいという課題がありました。
チェックインやウィンセッションで、他人の仕事をより深く理解するようになった、周囲の貢献を意識的に探そうというマインドができ、仕事に意欲的になったとの声が聴こえています。
私は各部門のチェックインやWinセッションに参加することもありますが、特にWinセッションで承認・称賛の文化が醸成されつつありますね。
OKR推進チームを筆頭に、リーダー会議やFAQ作成など様々な施策でOKR浸透に熱心に取り組んでいただいていると感じています。
御社がOKRの導入を決断された時期は、コロナ禍でリモートワークが増えた時期と重なりますね。新しい働き方へのマネジメントに課題を抱えている企業は多いと思います。
足立様
コロナ禍がOKR導入のきっかけではありませんが、リモートワークでも高い頻度でコミュニケーションができています。
パナソニックではABD(A Better Dialogue)といいますが、コミュニケーションの質・量を向上させ、一人ひとりの個性ややる気、チャレンジを今まで以上に引き出し、新たな成長への原動力につなげることで、社員がよりイキイキと働き、社会へお役立ちし続ける企業であることを目指しています。上司・部下の1on1も全社で推進しています。
高頻度のコミュニケーションが成否を握りますよね。またその前提として、上司部下の間の信頼関係、心理的安全性のある職場づくりも大切です。ぜひOKRや1on1を活用して、イキイキとした職場を目指したいですね。
最後に、足立さんは、他社の知的財産部門長や経営責任者の方とお話されることも多いと思いますが、他社の方にもOKRの導入を薦められますか?
足立様
はい。OKRは、環境変化が激しく、また活動の成果を数値化することが難しい、知的財産部門のマネジメントにこそ有効だと確信しています。従来のように、達成を前提とした目標設定では、チャレンジングな目標を設定することに躊躇してしまう場合もあると思います。
OKRを導入してからは達成困難な目標が部門の責任者やメンバーからも上がってくるようになりました。たとえば、事業に貢献した知財活動の事例を〇件つくる、というのは四半期、ないし1年でも達成が難しいのですが、それぞれ現場の事業に合わせた各目標があがってくるようになりました。
弊社が、知的財産部門にフィットするOKRの運用を業界に先んじて示していきたいですね。
本日はありがとうございました。
会社概要
パナソニックIPマネジメント株式会社
(設立)
2014年9月1日
(業務概要)
知的財産の調査、出願・権利化、維持・管理、知的財産の利用許諾等に関する契約・交渉等の知的財産業務全般
弊社は、パナソニックにおける知的財産の実務機能を独立・別法人化したものです。
2014年設立でグループの知的財産を集約して出願やライセンス、特許庁や他社との渉外など、知的財産に関わる業務全般を一手に担います。そのため、弁理士・弁護士をはじめとする知的財産のエキスパートはもちろんのこと、グローバルなビジネス経験が豊富な人材が多数在籍しています。現在約500人の組織です。