日本を代表するような名門企業の凋落ぶりのニュースが近年増えています。
これらの企業は一流のメンバーを採用し、教育・研修体制も十分にあり、そして勤勉で努力を惜しまず仕事をしていたでしょう。
このように高いの能力をもった人材が努力をしていた企業であっても、成長どころか安定も保てない事態に陥るのはなぜだろうか?
全体の能力を制限する「ボトルネック」
製造工程管理や在庫管理などで、よく使われる「ボトルネック」
このボトルネックとは、作業やシステムなどにおいて、全体のうち一部の能力、容量などが低いため、その部分が全体の能力や速度を制限してしまうことを意味します。
例えば、組み立て→塗装→出荷という流れで考えてみましょう。
組み立てが100個/日、塗装が70個/日、出荷が100個/日できる能力を有している場合、全体の能力は塗装がボトルネックとなり、70個/日となるということです。
この状態で組み立ての能力をさらに上げ200個/日としても、全体の能力は70個/日を超えることはありません。
また部門内においても、全員の能力や努力の平均値が高かったとしてもバラツキが大きければ、他の工程はそのバラツキに合わせるために余分な動きをしなくてはなりません。
つまり、バラツキがあると全員の能力や努力の総和が全体の能力を押し上げることにはならないのです。
しかしながら、多くの企業の人材開発や目標管理では従業員個人の能力や努力を上げることによって、全体の成果を上げようとしています。
パズルの1ピースごとをいくらきれいに仕上げても、別々の絵が描かれていれば、きれいなパズルは完成しません。
全員の能力や努力があったとしても、全体の成果が上がるわけではないので、個人の能力や努力だけに依存することは危険と言えます。
組織の透明性がボトルネックを解決する
組織として、ボトルネックをどう解決すればよいのでしょうか?
先に示したように塗装工程がボトルネックで、30個/日が足りていないことが分かれば解決しようと動けます。
しかしながら、実際の業務は複雑で、先ほどの単純な製造工程の例ようにボトルネックの存在が分からないことが多く、その解消は困難なことが多いです。
ボトルネックの解消を困難にする要因は主に3つ、目標設定、目標管理と透明性にあります。
1つ目の目標設定ですが、そもそも個人や部門の目標設定が全体の能力を押し上げることにつながっていないことがあります。
目標を設定されると当然その目標に向けて能力をあげ努力をするのですが、全体の能力を押し上げることにつながらない目標であれば、その努力は成果を生みません。
全員の努力を一方向に向けるためには、全体と個人の目標がつながっている設定は重要です。
2つ目の目標管理ですが、実績と目標との管理にタイムラグがあることで、ボトルネックの把握までに時間がかかってしまい、解消されないことになります。
特に目標管理が人事評価の手段となっている企業では、年初に目標設定し、年に2回実績管理をするというペースになっていることが多いのではないでしょうか。
また、タイムラグがあると、1つ目の目標設定のミスに気づくタイミングも遅くなってしまいます。
変化が激しい世の中で、常に正しい戦略、目標の設定は困難になっています。そのため、修正のタイミングをできるだけ早く行うことが競争優位を保つことにつながります。
そして最後が透明性です。
組織の透明性とは、つまり組織内全体で情報共有が随時行われている状態です。透明性がなければ、自分たちが全体のボトルネックになっている可能性に気づけない、また他のメンバーがボトルネックの解消に協力することもできないのです。
目標管理と言うと上司部下の間でのみ行われることが多いですが、そうすることで全体の能力を上げることよりも部分最適につながったり、不毛な部門間対立を生むことにつながります。
全体の目標と合っているか、全体の成果を押し上げているか、と常に気づけることで自律的な努力を生み出すことになります。またボトルネックになっている部分を見つけ出し、協力しようとするチームワークが生まれることにもなります。
OKRの運用でクローズからオープンな組織文化に
OKR(Objectives and Key Results)は目標管理の手法として、近年注目を集めています。
「目的と重要な結果指標」と訳されるこの手法ですが、これまでのMBOに代表される目標管理と大きく違う点の1つが透明性にあります。
会社全体のOKRとチーム、個人のOKRは設定段階からつながりを持つことが重視されるとともに、進捗管理においても常に全社の全員に対して全てのチーム、個人のOKRが公開されています。
そのため、自律的な努力を生み出すとともに、協力できるチームワークが生まれます。そして常に公開されていることでズレや遅れを瞬時に把握でき、修正のスピードも上げることができます。
また、全体のOKRとのつながりを個人が常に把握できることで、全体に対する貢献感、自分の重要感を実感することにもつながります。
このように目標管理がオープンになることで、オープンな組織文化を生みます。
人間は不明なことに不安感、不信感を持つためクローズな文化では心理的安全性は生まれません。
心理的安全性がない状態では、たとえ建設的であっても反対意見を言うと人間関係が悪化すると考えるため、建設的な議論は生まれないのです。
反対にオープンな環境では安心感、信頼感を持てる、つまり心理的安全性がうまれるため、より建設的な議論が生まれ、全体の成果に向かうチームワークの相乗効果が発揮されます。最近の研究でも、強いチームは心理的安全性が高いと言われています。
全員の能力、努力を全体の成果につなげることで強いチームを作る1つの解決策が、OKRと言えるでしょう。