課長の3人に2人が生成AIを業務で活用し、フィードバックや育成アドバイスにまで使い始めています。効率化が進む一方、課長たちが懸念するのは「部下が自分で考える力が育ちにくくなる」こと。
しかしデータが示す、もう一つの問題があります。部下の思考力低下を心配する課長自身が、AIへの依存リスクを抱えているという現実です。この記事では、「課長のAI活用実態調査」をもとに、AI時代の部下育成において人事・経営企画が考えるべきことを解説します。
【この記事でわかること】
- 課長のAI活用が「育成・評価」領域にまで広がっている実態
- 課長が感じる「部下の思考力低下」への懸念とその背景
- 見落とされがちな問題——課長自身もAI依存のリスクにさらされている
- 人事・経営企画が見直すべき、育成設計と管理職支援の視点
AIはもう、マネジメントの現場に入り込んでいる
課長層においては、2026年3月時点において「生成AIは使っていない」がすでに少数派になりつつあります。
冒頭で消化した調査によると、67%が月に複数回以上、仕事で生成AIを活用していることがわかりました。週に数回以上という頻度に絞っても51%に上ります。
注目すべきは、その活用領域です。AIを月複数回以上利用している課長132人に、マネジメント業務での活用内容を聞いたところ、上位に挙がったのは以下の項目でした。
- 部下へのフィードバック文言の整理:28%
- 部下育成のアドバイスや指導案の整理:26%
- 人事評価コメントの作成・推敲:25%
- チームの課題整理や組織改善の検討:24%
資料作成や情報収集といった個人業務だけでなく、部下への関わりや評価といった、本来は人間的な判断が求められる領域にまでAIが入り込んでいる。これが2026年における課長の現実です。
効率は上がった。でも課長たちは何かを心配している
AI活用による変化として、「仕事のスピードが上がった(46%)」「資料や文章の質が上がった(40%)」という肯定的な回答が上位を占めました。現場の課長たちが、生産性向上の手応えを感じているのは確かです。
しかし同じ調査で、こんな懸念も浮かび上がっています。
- 部下のアウトプットの妥当性(AI生成かどうか等)の判断が難しくなる:23%
- 部下がAIに依存し、自分で考える力が育ちにくくなる:22%
スピードと質が上がる一方で、部下が本当に成長しているかどうか見えにくくなっている。課長たちはそのことを、肌感覚として感じ始めています。
実は、課長自身も同じ問題を抱えている
ここで一度立ち止まって考えたいのが、課長自身のことです。
同調査では、「AIに頼りすぎて自分で考える時間が減った(14%)」と回答した課長も一定数いました。部下の思考力低下を心配している当の課長が、自分自身もAI依存のリスクにさらされているという、少し皮肉な構図です。
フィードバックの文言をAIに整えてもらう。育成方針をAIに提案してもらう。そのこと自体は効率化として合理的です。しかし「この部下に何を伝えたいのか」「どう育てたいのか」という意思や判断の核心まで、AIに委ねてはいないでしょうか。
AIが出した言葉をそのまま使うのか、たたき台として自分の言葉に編集するのか。その違いは、受け取る部下にとって小さくない差になります。そしてその差は、課長自身が「自分の意思を持って」AIを使っているかどうかに直結しています。
部下にAIとの正しい付き合い方を求める前に、課長自身がAIとの関係を自分の意思で決められているか。そこが問われています。
これは課長個人の問題ではなく、組織設計の問題
こうした課題を、課長一人ひとりの意識や努力に任せてはいけません。人事・経営企画が向き合うべき問題として捉え直す必要があります。
育成・評価の設計を見直せているか
現在の育成、評価制度では、AIではなく自分で考え抜いたプロセスを明確に区別できていますか。OJTの設計に、部下が自分で考える機会を意図的に組み込めていますか。
課長自身の「使い方の軸」を支援できているか
管理職研修にAIリテラシーを組み込む動きは広がっています。しかし必要なのはツールの使い方だけではありません。
「自分はAIをどう使うか」という意思と基準を、課長自身が持てるよう支援することが求められます。AIを使いながら自分の判断軸を保てる課長を育てることが、部下育成の質を守ることにもつながります。
課長が孤立していないか
タバネルの別調査「燃え尽き課長の実態調査(2025年11月)」では、課長の燃え尽きの最大要因はキャリアの行き止まり感と役割の曖昧さであることが明らかになっています。
AI時代においても同様に、課長が「何のために、どこに向かって使うのか」を見失わないよう、上司との対話や人事との接点を設計することが重要です。
まとめ
生成AIの普及は、マネジメントの効率を上げる一方で、育成の本質を問い直すきっかけになっています。
課長がAIを使うこと、それ自体は止める必要はありませんし、むしろ促進すべきことです。問題は、AIを使う課長が自分の意思と判断を持ち続けられるか、そしてその状態を組織が支えられるか、です。
「AIを使いこなせる課長を育てる」だけでなく、AIを使いながら「自分の意志を磨き続ける課長」、「自分の意志を持つ部下を育てられる課長」を組織としてどう支援するか。
その問いに向き合うことが、人事・経営企画の次の仕事になっています。