「管理職が変われば組織が変わる」という考え方が、課長の燃え尽きを加速させています。
エンゲージメント、心理的安全性、キャリア自律——あらゆる組織課題のキーマンとして管理職に丸投げしてしまう人事の対応は、リーダーシップ幻想という認知バイアスに基づいています。この記事では、リーダーシップ幻想の実態と、人事が本当に取り組むべきことを解説します。
【この記事でわかること】
- 「リーダーシップ幻想」という認知バイアスの正体
- 心理的安全性や1on1が現場で形骸化する「理想と現実」のギャップ
- なぜ「管理職研修」を増やすだけでは組織の課題が解決しないのか
- 人事がリーダーシップ幻想を手放し、最初に取り組むべき3つの仕組みづくり
「リーダーシップ幻想」とは何か
リーダーシップ幻想とは、組織の成果や課題の原因を、環境要因や組織の仕組みではなく、リーダー個人の資質や能力に過剰に帰属させる認知バイアスのことです。
管理職は多くの組織課題を解決するにあたって、重要な役割を担います。しかし、すべての課題を管理職個人に帰属させ、「管理職が変われば、課題が解決する」と考えることは、組織の現実を見誤っていると言わざるを得ません。
株式会社タバネルが課長400名を対象に実施した「燃え尽き課長の実態調査(2025年11月)」では、課長の3人に1人以上が燃え尽き傾向にあり、半数がやりがいを感じていないという結果が出ています。管理職に際限なく課題解決を求め続けた結果が、この数字に表れています。
「研修をやれば現場は変わるはずだ」
「現場が回らないのは課長のリーダーシップが足りないからだ」
もし、人事がこのように考えているとしたら、そ無意識のうちに「リーダーシップ幻想」に囚われているサインかもしれません。目の前の管理職を救い活躍してもらうために、まずは人事が、リーダーシップ幻想を捨てる必要があるのではないでしょうか。
リーダーシップ幻想が生み出す理想と現実の乖離
リーダーシップ幻想が生まれやすい場面として、現場でよく見られる3つのパターンを挙げます。
心理的安全性
心理的安全性は、メンバーがリスクを恐れずに発言できる状態を指し、チームで成果を生み出す土台となります。チームの心理的安全性は、リーダーである管理職の影響は大きいですが、大きな落とし穴が見られることがあります。
理想:
現場に近い管理職が心理的安全性を高めるキーマンになる。
現実:
経営層のトップダウンのコミュニケーションが、経営から現場まで心理的安全性を低下させている。
管理職自身が本音を控え、経営層と現場の双方の意見を聞き入れすぎている状態で、心理的安全性を高めることは難しい。
キャリア自律支援
変化の激しい時代において、会社に依存せず自らキャリアを切り拓くキャリア自律の重要性が高まっています。管理職が部下のキャリアを支援するべきと期待しますが、支援者する側への視点が抜け落ちてはいないでしょうか。
理想:
距離の近い上司による支援が最も効果的。
現実:
自らのキャリアに行き止まり感を抱えたまま、部下のキャリアを支援することはできない。タバネルの調査では、課長の48%が昇進の見込みが立っておらず、43%が仕事への意欲が低下していると回答しています。キャリア支援を自分自身が受けていない管理職に、部下のキャリアを支援させることには無理があります。
1on1
1on1は、信頼関係の構築や部下の成長支援に欠かせないとして、多くの会社で導入が進みました。管理職が傾聴やコーチングのスキル向上を目的に研修を実施することがあります。しかし、現場で起こっているスキル以前の問題が残されてしまっています。
理想:
管理職の傾聴・コーチングで、部下の成長を支援できる。
現実:
受け身な部下が漫然と1on1に来ている。管理職自身に相談相手がいない。そもそも管理職自身が1on1を受けたことがない。スキルを身につける前に、1on1が機能する環境が整っていないのです。
なぜ管理職だけでは解決しないのか
3つのパターンに共通しているのは、管理職個人がどれだけ頑張っても、仕組みがなければ限界があるという点です。
心理的安全性は、経営層が率先して双方向のコミュニケーションをとる仕組みなしには根づきません。キャリア自律支援は、管理職自身のキャリアを支える制度なしには機能しません。1on1は、管理職が安心して相談できる環境なしには形骸化します。
管理職に求められる役割は年々増えています。心理的安全性、キャリア自律支援、パワハラ対応、リモートワーク管理、DX推進——新しい課題が次々と降ってくる一方、「何をやめるか」が決まらないまま、役割だけが際限なく膨らんでいきます。
リーダーシップ幻想のもとでは、何か問題が起きるたびに管理職研修が増え、管理職への要求が増え、管理職の負担が増えていきます。その結果が、課長の3人に1人が燃え尽き傾向にあるという現実です。
人事が捨てるべき考え方、取り組むべきこと
リーダーシップ幻想を脱するために、人事が考え方を切り替えるべき点が3つあります。
「管理職を変える」より「仕組みを変える」を優先する
管理職研修の前に問うべきことがあります。そもそも管理職が動きやすい仕組みになっているか。役割は明確か。権限は与えられているか。経営の方針は伝わっているか。
仕組みが整っていない状態でスキルだけを教えても、現場では機能しません。
管理職の役割として「やらないこと」を決める
求められる機能が増え続ける現状に歯止めをかけるのは人事の仕事です。戦略の変化に合わせて管理職が担うべき役割を再定義し、不必要な業務や曖昧な責任範囲を整理しましょう。
「管理職が本来やるべきこと」に集中できる環境をつくることが、燃え尽きを防ぐ最初の一手です。
管理職を孤立させない「縦と横」の対話をつくる
タバネルが実施した「課長のやりがい実態調査(2025年3月)」では、やりがいの高い課長ほど「上司に相談できる」「他部署と連携できる」「経営の意思決定に現場の意見が反映されている」と回答しています。
管理職同士が本音で話せる横のつながり、現場の声が経営に届く縦の対話。この2つの回路を人事が意図的に設計することが、管理職を活躍できる土台となります。
管理職が燃え尽きているのは、管理職が弱いからではありません。仕組みが管理職を孤立させているからです。
「研修を増やしても変わらない」と感じているなら、まず問い直してみてください。管理職に求めていることは、仕組みなしに実現できることなのか、と。リーダーシップ幻想を手放したとき、人事が本当に取り組むべきことが見えてきます。
よくある質問
Q. リーダーシップ幻想とは何ですか?
組織の課題や成果の原因を、環境や仕組みではなくリーダー個人の資質に過剰に帰属させる認知バイアスのことです。「管理職が変われば組織が変わる」という考え方がその典型で、管理職への要求を際限なく増やす原因になります。
Q. 管理職研修は意味がないのですか?
意味がないわけではありませんが、順番が重要です。仕組みが整っていない状態でスキルだけを教えても現場では機能しません。まず役割の明確化や対話の仕組みを整え、その上で必要なスキルを育成する順番が効果的です。
Q. 管理職支援で人事が最初に取り組むべきことは何ですか?
管理職の役割の再定義と「やらないこと」の決定が出発点です。何を担うべきかが明確になって初めて、必要な育成と支援が見えてきます。管理職を孤立させない縦と横の対話の仕組みづくりも、並行して進めることをお勧めします。が、燃え尽きへとつながります。