なぜ「仕事のやりがい」が重要なのか?
仕事に対する「やりがい」を感じることは、単なるモチベーションの問題ではありません。仕事のパフォーマンスが向上し、心身の健康状態が改善されるなど、本人に良い影響があります。また、「やりがい」を感じる社員が増えることは、企業にとってもパフォーマンスや定着率の向上につながります。
では、どのようにすれば仕事へのやりがいを高められるのでしょうか?その鍵となるのが「ワーク・エンゲージメント」という概念です。
ワーク・エンゲージメントとは?
ワーク・エンゲージメントは、仕事に対して前向きで、熱心に取り組み、エネルギーを感じながら働いている状態を指します。ユトレヒト大学のウィルマー・シャウフェリ(Wilmar Schaufeli)らが提唱し、バーンアウト(燃え尽き症候群)の対極にある概念として整理されました。
最も広く用いられているのが、「活力」「熱意」「没頭」の3要素から構成されるモデルです。
- 活力(Vigor):仕事から活力を得ていきいきとしている状態
- 熱意(Dedication):仕事に誇りを持ち、意義を感じる状態
- 没頭(Absorption):仕事に深く集中し、時間を忘れるほど取り組める状態
ワーク・エンゲージメントが高い人は、組織への貢献意欲が強く、創造的な仕事ができることが研究で示されています。また、心理的ストレスが低く、仕事の満足度が高い傾向があり、企業の業績向上にも貢献するとされています。
JD-Rモデルとは?
ワーク・エンゲージメントを高めるためには、個人の努力だけでなく、仕事の特性や職場環境が大きく影響することがわかっています。そのメカニズムを説明するフレームワークの一つとして、JD-Rモデル(Job Demands-Resources model:仕事要求度-資源モデル)が注目されています。
JD-Rモデルは、オランダの心理学者アーノルド・バッカー(Arnold Bakker)とエヴァンゲリア・デメロウティ(Evangelia Demerouti)が提唱した理論です。仕事のストレスとやりがいのバランスを説明するシンプルかつ汎用性の高いモデルであり、厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」でも取り上げられるなど注目されています。
このモデルでは、仕事のストレスやエンゲージメントを決定する要因を「仕事の要求度」「仕事の資源」「個人の資源」の3つに分けて考えます。そして、「仕事の要求度」と「仕事の資源」、「個人の資源」のバランスがワーク・エンゲージメントに影響すると考えられています。
JD-Rモデルの特徴は、単に「仕事の負担を減らせばよい」という考え方ではなく、「負担があっても、それを支える資源があれば、ワーク・エンゲージメントを維持できる」と説明している点にあります。
仕事の要求度が高いにもかかわらず資源が不足していると、従業員はストレスを感じやすくなり、ワーク・エンゲイジメントが低下しやすい。さらに、ストレスの増加により、せっかく存在している仕事の資源を十分に活用できなくなることもあります。 逆に、資源が豊富にある場合、仕事の要求度が高くてもワーク・エンゲージメントを維持・向上させることができることが分かっています。
仕事の要求度
仕事を進めるうえで必要な負担を指します。具体的には、仕事のプレッシャー、精神的・肉体的な負担などが該当します。これらの負担が過剰になると、ストレスが増し、エネルギーが消耗しやすくなります。
仕事の資源
仕事の負担を軽減し、働く人をサポートする要素です。裁量権、適切なフィードバック、上司や同僚の支援などが含まれます。
個人の資源
個人の内面的な強みが、仕事のやりがいやストレス対処に影響を与えます。心理的資本と呼ばれる、自己効力感(「自分ならできる」という自信)、楽観性(ポジティブな未来志向)、レジリエンス(困難を乗り越える力)などが含まれます。
また、「仕事の資源」と「個人の資源」は、各々が独立してワーク・エンゲイジメントを高めるだけでなく、相互に影響を及ぼしながらワーク・エンゲイジメントを高めます。
まとめ
仕事のやりがいは、個人の意欲だけでなく、環境や仕組みと密接に関わっています。
ワーク・エンゲージメントを高めるには、仕事の要求度と資源のバランスを意識し、適切なサポートや工夫を取り入れることが重要です。
企業は、従業員が周囲の支援や協力を得やすい環境を整え、成長機会を提供することが、前向きに働く社員を支えることが求められます。
一方で、個人も、自ら仕事の意義を見出し、仕事のやり方を工夫しながら、周囲に支援、協力を求めることで、より充実した働き方につなげることができます。
「負担を減らす」だけでなく、「資源を活かす」視点を持つこと。
仕事のやりがいを高め、持続的な成長につながる鍵となるでしょう。
(参考)
「令和元年版 労働経済の分析 ー人手不足の下での『働き方』をめぐる課題についてー」(厚生労働省)
組織行動論の考え方・使い方-第2版(服部泰宏 著)
「Q&Aで学ぶワーク・エンゲイジメント(島津明人 編集代表 )