私自身、多店舗展開の企業の経営に携わった経験もあり、多店舗展開企業の経営者の方々のお話を聞く機会は多い。今回はその中から「制服」から学んだマネジメントのヒントについての話をしよう。
業績が落ちる典型的な例
とあるチェーン展開をしている飲食店であるが、業績が落ちる店舗の典型的な例があると教えてくれた。
どこの店舗も営業時間も長く、学生、主婦、フリーターなどたくさんのアルバイトが働いている。そして人手不足の影響でシフトを作る店長は毎回苦労をしている。そのため、シフトにはたくさん入れるが、店のルールを守れないスタッフを店長がシフトを埋めるために重宝してしまう。
このようなことを繰り返すと店舗はどうなるだろうか?
ルールを守れないスタッフは店長に「店長からのお願いなら、聞いてあげますよ」と徐々に店長に対して上から目線の発言が目立ちだす。しかも、店長は藁をもつかむ思いでいたシフト問題が「お願い」するだけで簡単に解決したことから、次からも「お願い」を連発する。
そして「お願い」を連発されたスタッフに対して、ルール違反について注意ができなくなっていく。そうすると店舗全体がルールに甘い店舗、つまり規律の乱れた組織になってしまい、ついには業績も急下降をたどっていく。小さなルール違反の放置が大きなルール違反を生んでしまう「壊れ窓理論」が現実の場でも起こってしまうのである。
業績を回復させるシンプルだが強力な方法
このように業績が急降下する店舗の症状が分かっているその経営者は、立て直す方法についても当然身に着けていた。
キーワードは「制服」だ。
規律の乱れた店舗は往々にして「制服」の着方が乱れていたり、クリーニングが正しくできていない。そのため、業績立て直しのため最初に行うことは「制服」を正しく着ることを徹底することから始めるそうだ。
そしてシフトの融通がいくら利こうが、「制服」が乱れたスタッフは厳格に注意するとともに、シフトで重宝しないこと、を徹底する。
この効果は絶大だそうで、大きく二つの効果を生むことになる。
- 規律が守られ業務態度の改善が起こる
- 業務手順、指示を守ることが当たり前になる
規律が正された効果によりチェーン展開で決められた水準の仕事をできるようになることで業績は回復に向かっていく。
納得感はモチベーションを生むが、必要ない時もある
しかし、学生時代を思い出すと「なんでこの制服を着ないといけないんだ?」と不満を抱いた方も多いのではないか。
同様にこの企業においても「制服」の乱れを正す指導をすると、あからさまに不満げな顔をしたり、納得していないと口に出すスタッフもいるそうである。
しかしながら、ここではあえてその理由を語り納得感を得ることはしないことが重要なのである。
プロ野球の例で恐縮だが
「阪神タイガースの選手が、縦じまのユニフォームではなく、横じまが着たい」といった場合、納得いく説明ができるだろうか。いや、できたとして説明する必要があるだろうか。
むしろ「縦じまのユニフォームを着なければ阪神タイガースの選手でない」と言った方が正確である。
何が何でも会社の規則には納得感なしに従え、ということではない。
しかしながら、組織の一員として最低限守らなければいけないもの、それが規律を生み出し、業績を回復させる原動力になる。
規律を生み出すことはリーダーの責務であると、改めて考えさせられた話でした。
最後に阪神タイガースの監督を務めた野村克也氏の言葉で締めくくりたい。
弱いチームは規律が甘い。乱れている。断言してもいい。